本棚の宝物

読書感想が中心です。あとは、日々のちょっとしたことと 手作りした作品などなど。

柚木麻子

「オール・ノット」 柚木麻子



友達もいない、恋人もいない、将来の希望なんてもっとない。
貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。
「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」
彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。


過去から近未来までの女性たちの物語。
おもしろかったけど・・・もの悲しくてちょっと苦い

真央は頑張り屋の苦学生。彼女のぎりぎりの生き方が苦しい。
でも、そんなに奨学金の返済がたいへんなら、なぜ国立大学目指さなかったんだろう・・・とか、
最初に提示されたような将来を再設計できるほどの金額ではなかったとしても
四葉さんから渡された宝石が100万円を超える金額になったのなら、もっと感謝するべきじゃない?
とか、もやもやしてしまって

憎めないキャラではあるけど、自分の好きに生きてるだけの実亜子も共感もてず

四葉さんは妖精なんじゃないかと思うくらい実在感ないし

でも、誰にも感情移入はできないながらも
山戸家の戦後からの物語もおとぎ話のようで引き付けられる。

コロナ禍を乗り切ったかと思えば、日本はどんどん貧しくさらに生き辛いさが加速していく

悲惨な未来の展望に暗澹とした気持ちに

なのに、なのにこの素敵な装丁。予想を覆す中身にびっくりのお話でした。
溺れる寸前に差し出される一筋の藁。差し出す方もぎりぎりの状態。
これがシスターフッドの現在地なのでしょうか。。。

四葉さんと同じで「幸福な王子」のお話はわたしも子供の頃から好きじゃなかった。
語られていないけど、彼女は王子よりも賢いやり方で幸せな人生を歩んでいたと思いたい



「ついでにジェントルメン」 柚木麻子



分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。

編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、
女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、
男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、

なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。


権威や価値観が思いがけない方向からぐらぐら揺すぶられる展開がおもしろい短編集。
おじさんの矜持がひっくり返されて戸惑う様はちょっぴりかわいそうだけど、滑稽で楽しい

明らかに下に見て見縊っていた存在からの反撃は痛快

一番おもしろかったのは、「エルゴと不倫鮨」
高いお金を出してお店の雰囲気込みで食事を楽しみたい気持ちはわかるし、それを台無しにされるのは気の毒ではあるけど、
本当に味のわかる食通とおいしいものを味わいたい情熱には太刀打ちできない

立場の違う女性同士の連携も「らんたん」からの流れのシスターフッドでしょうか。

最初と最後に登場する菊池寛が憎めないキャラなのもいい感じ

「らんたん」 柚木麻子



大正最後の年。かの天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりにプロポーズした。

彼女からの受諾の条件は、シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす、という前代未聞のものだったーー。


著者の母校である恵泉女学園の創立者である河井道。
年月を経ても変わらぬ女同士の友情と協力。
夢を実現させ続けた女性の明治大正昭和の長い長い物語。

やはり時代を代表する著名人や文化人同士の繋がりはあっただろうけど、
それにしても登場人物がもりだくさん

これは女性の物語のせいか、男性には手厳しい。
有島武郎や野口英世も道にかかったら情けない感じに
それに比べてメインではない登場人物でも豪快で筋の通った女性のなんと多いこと

大河ドラマ的には女性はヒーローを支えるだけになりがちだから、
役割が反対なのもおもしろい

関東大震災も戦争も時代を語るには避けて通れないのはわかるけど、
やはり、ちょっと長すぎて。。。
最後まで飽きさせない・・・とは言えなかったかも


それでも、温かく痛快で楽しい作品でした

「マジカルグランマ」 柚木麻子



女優になったが結婚してすぐに引退し、主婦となった正子。夫とは同じ敷地内の別々の場所で暮らし、もう4年ほど口を利いていない。

ところが、75歳を目前に再デビューを果たし、「日本のおばあちゃんの顔」となる。

しかし、夫の突然の死によって仮面夫婦であることが世間にバレ、一気に国民は正子に背を向ける。

さらに夫には2000万の借金があり、家を売ろうにも解体には1000万の費用がかかると判明、様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくが―。

「理想のおばあちゃん」から脱皮した、したたかに生きる正子の姿を痛快に描き切る極上エンターテインメント!


自分の欲望に正直な正子。
生々しい自己顕示欲なんて枯れて、穏やかな気持ちで年を重ねるなんて幻想なのかもしれない。

誰かに認められたい気持ちは老人になったって若い時と同じ。
むしろ未来がないぶん早急に結果を求めるのだと、正子は言う。

「だって、年寄りは次にいつちやほやされるかわからないんだもの」

正子の夫のように表向きは他人の評価を気にしないふりをしているかどうかの違いだけ。

それにしても、杏奈に「おばあさんのくせにがっつきすぎ」と言われるほどなりふり構わないガッツがすごい

もっとずるく立ち回れば、歴史ある邸宅に暮らす元女優にして有名映画監督の未亡人・・・というわかりやすいアイコンになることだってできそうだったのに。
それでは、彼女の自己顕示欲は満足しない

世間に嫌われ、順調だった仕事も失ったところから正子のタフさが目覚めていく。

夫の心棒者だった杏奈との関係も利用しながら、ストレートに非難しやり合うのがおもしろい。
若い人を庇護したり立てたりなんて気は、正子にはない。
ただ、わからないことは教えてもらい、どんどん吸収して切り替えていく。過去にも執着しない。

SNSで非難されたら、次は利用することを考える。
この「失うものはない」感が彼女の強み。

若者を陰で支えたりしなくても
正子が振り回した結果、周囲の人々はそれぞれ前向きに生き甲斐をみつけていく。
ややできすぎだけど、爽快

それにしても最後の最後にきてこの結末!
いかにも正子らしくて笑ってしまった
ただのおばあちゃんのサクセスストーリーなんかで幕を閉じません




タイトルのマジカルグランマの元になっている言葉「マジカル・ニグロ」を知らなかったので
後で調べてみました。
白人を助けるために存在する魔法のような黒人・・・ハリウッドの伝統。
確かに多いかも。。。

グリーンマイルだけでなく、そもそもスティーヴンキングの原作にもよく登場するものね。
スパイク・リーは不快かもしれないけど、
わたしは意識が低いのか 作品として何の疑問も持っていませんでした


スパイク・リーの登場人物すべて黒人の映画もおもしろかったの覚えています



「BUTTER」 柚木麻子



結婚詐欺の末、男性3人を殺害したとされる容疑者・梶井真奈子。

世間を騒がせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿と、女性としての自信に満ち溢れた言動だった。

週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、親友の伶子からのアドバイスでカジマナとの面会を取り付ける。

だが、取材を重ねるうち、欲望と快楽に忠実な彼女の言動に、翻弄されるようになっていく―。

読み進むほどに濃厚な、圧倒的長編小説


言わずと知れた木嶋佳苗事件がモチーフ。
死刑判決の出たあの事件とこの作品がどれほどリンクしているかはわからないし、そこはあまり興味ない。

カジマナと話すだけで心を乱され精神的に追い込まれていく女性たち。
なんであんな女にそこまで追い込まれなきゃならないの?

誰だって自分の生き方に100% 自信満々ってことはないはず。
確信が持てず、悩み戸惑っているすきを抉ってくる梶井は
冷静に見れば羨ましくも憧れもしないような存在なのに無視できない。

読んでる方も何だかどんどん不安になってくる
拘置所の面会室で巨峰のような目に見つめられて居心地の悪い思いをしているかのように。。。


食欲に貪欲になるのはエロティックな要素はあるけど、
美味しそうな描写も延々と続くとさすがにおなかいっぱい

おもしろかった心理劇も後半は消化しきれなくなってきたかも・・・

なんだか、紙が薄いんだよねこの本。
ページ数が多いのはいいんだけど、薄すぎてたびたび2ページいっぺんにめくちゃってイライラ
イライラしちゃうのは疲れてるからか。これもカジマナの心理操作なのか

とにかく読み応えはこってり濃厚



木嶋佳苗の拘置所日記に、自分の名前を宣伝に利用するな!と書かれていたけど、
ご怒りはごもっとも ・・・いや、でもこの本が直木賞とったら大喜びするのかもだけど

とにかく本の宣伝に犯罪者(容疑者?)の実名をを出さなくてもよかったのでは・・・と、思いました。
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プロフィール

樹里

本が大好き。図書館ヘビーユーザーです。
編み物やビーズで手間のかかるモノを作るのも好き。
ラルクアンシエルらぶ。

好きなテレビ番組は「ブラタモリ」タモリが持ってた江戸の古地図ハンカチが欲しい!

好きなアニメは「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」関東事変も渋谷事変も終わってしまって寂しい。早く続きが見たい^^


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