本棚の宝物

読書感想が中心です。あとは、日々のちょっとしたことと 手作りした作品などなど。

中島京子

「オリーブの実るころ」 中島京子



恋のライバルは、白鳥だった!?
結婚と家族と、真実の愛をめぐる劇的で、ちょっぴり不思議な6つの短編集。
(吉川英治文学賞 受賞第一作)

「家猫」
バツイチの息子が猫を飼い始めたらしい。でも、家に行っても一向にその猫は姿を現す様子もなくーー。

「ローゼンブルクで恋をして」
父が終活のために向かった先は、小柄ながらも逞しい女性候補者が構える瀬戸内のとある選挙事務所だった。

「ガリップ」
わたしたちは、どこまでわかり合えていたんだろう。男と女とコハクチョウとの、三十年にわたる三角関係の顛末。

「オリーブの実るころ」
斜向かいに越してきた老人には、品のいい佇まいからは想像もできない、愛した人を巡る壮絶な過去があった。

「川端康成が死んだ日」
母が失踪して四十四年。すでに当時の母の年齢を超えてしまった私に、母から最後の願いが届く。

「春成と冴子とファンさん」
宙生とハツは、結婚報告のために離婚した宙生の両親を訪ねることになった。二人は思い思いの生活をしていて。


どれも一捻りあって、おもしろかった

人生は紆余曲折。見る位置を変えると物語もまったく変わってしまう。

ほのぼのだけでは絶対終わらない著者らしい短編集でした


当分はオストハウプトシュタットから出る予定はないけど
わたしの人生にもまだまだ思いがけない変化が待っているのかも

「やさしい猫」 中島京子



シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。

出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。

当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。

大きな事件に見舞われた小さな家族を、暖かく見守るように描く長編小説。


前知識なしで読み始めたので、最初のほのぼのとした感じからダーリンは外国人的な物語なのかと

単身日本に来て、学校を出て資格を取って働いていたスリランカ人のクマさん。
前夫と早くに死別した年上のシングルマザーのミユキさんとのゆっくり育まれる愛情。

周囲も祝福して結婚の話が進んだ矢先、状況が変わってくる・・・

物語は高校生のマヤが、家族に起こった出来事をある人に伝えるために語る形式ですすんでいく。

そのために途中かなり悲惨な状況になっても、きっときっと希望があるはずと思える

入国管理局がそんなに厳しいところだと恥ずかしながら知りませんでした。
入管センターに長期間収容されて外に出られない絶望感。
中には何年も収容されている人もいるとか。。。

偽装結婚ではないと認めてもらうのが、これほど困難だという事。

そして、入管で知り合ったハヤトくんのように日本で生まれた子でも難民申請が認められなければ仮放免のまま何年も過ごさなければならないという事。
その生活は制限が多く、仕事もできなければ健康保険にも入れない。
将来の希望が持てないなんて辛すぎる。。。

コンビニやファストフードで働く外国人をたくさん見かけるので
現在はいろんな状況で来日した人でも日本で働きやすい制度になっているのかと思っていました。

日本は難民の受け入れが少ないのは知っていましたが、これほどだったとは

日本で生まれて日本語しか話せないのに強制退去させられてしまうケースはよくあることなのでしょうか。

どんどん救いのない息苦しい状況になっていく中、
マヤを助けてくれるベストフレンドのナオキくんの知性と行動力に救われます。

一方的に不利な展開になっていく入国管理局の審判では、もどかしくて辛いけど、
訴訟になってからは、弁護士の恵先生の手腕が光り、家族に希望が見えてくる

いろいろ根深い問題を含みながらも、読後感は温かいです

タイトルの「やさしい猫」は自分が殺してしまったネズミの子どもを引き取って育てるというスリンランカの昔話なんだとか。
猫は自分の子どもを育てるために親ネズミを食料として狩ってしまったけれど、
残された子ネズミの境遇に同情して、子猫と子ネズミを一緒に仲良く育てる。

最初にこの物語を聞いた幼いマヤも戸惑うけど、確かにちょっとわかりにくい。。。
物語の示唆するところは、ただ「やさしい」なのか?
成長したナオキくんの解釈のように多様性の物語なのでしょうか。
ピンとこないながらも印象に残るエピソードでした


「ムーンライト・イン」



だいじょうぶ。何かにつまずいた時、 あなたを待っている場所がある。

職を失い、自転車旅行の最中に雨に降られた青年・栗田拓海は、年季の入った一軒の建物を訪れる。

穏やかな老人がかつてペンションを営んでいた「ムーンライト・イン」には、年代がバラバラの三人の女性が、それぞれ事情を抱えて過ごしていた。

拓海は頼まれた屋根の修理中に足を怪我してしまい、治るまでそこにとどまることになるが――。

人生の曲がり角、遅れてやってきた夏休みのような時間に巡り合った男女の、奇妙な共同生活が始まる。


ムーンライト・フリットって夜逃げの意味なのね 。

寂れた田舎町にありながら、パラダイスのようなシェアハウス。
それぞれ訳ありながら、助け合いのバランスが絶妙な住人たち。

介護が必要な身でありながら、息子の言いなりに施設入居がイヤな80代のかおるさん。
かつての恋人の元に隠れ、介護の心得のある住人に手厚くお世話されているのに
なぜか気難しく不機嫌な印象のこの人がなんだかツボ

亡くなった夫に対しての鬱屈がそのまま息子に引き継がれていて、
何を言っても認知症と決めつけてくる息子に対しては言いたいことが言えないもどかしさ。
老後に肉親以外の頼れる元恋人なんてロマンス感じるけど、
息子との対立がこの人をメルヘンな存在ではいさせてくれない。

塔子さん以外は未だ解決しない問題を抱えながらも、この家から一歩踏み出すことに。
マリージョイと拓海くんの新しい生活と虹之介さんの健康と心の平和を祈らずにはいられません 。

かおるさんは息子とお嫁さんの前でぶちまけたから、大丈夫な気がします
不幸な気持ちが人を必要以上に老けさせることはあると思うので、
残りの人生を謳歌できたらいいですね 。

人生、次から次へと問題はでてくるけど、
一人で解決できないときに支え合えるのって素晴らしい

そんなうまい話はないと、かおるさんの息子のように疑り深くなるのも理解はできるけど


読後もおだやかな気持ちになれるいい作品でした

「キッドの運命」 中島京子



すぐそこにある未来は、こんな奇妙なものかもしれない。

廃墟化した高層マンションの老人が消えるわけ。汎用型AIが人を超えた時に起こる異変。
アグリビジネスから逃れた種の行き先――。
『小さいおうち』『長いお別れ』の著者が贈る、初の近未来小説。

とつぜんあの女があらわれた日は、雷鳴が鳴り響き、雹がばらばら降った日だった。しかも、あろうことか彼女は海からやってきたのだ。ドーニを一人で操縦して――「キッドの運命」

十四歳のミラは、東洋人の祖母が暮らす田舎で夏休みを過ごす。おばあさんばかりがいるその集落には、ある秘密があって――「種の名前」

人工多能性幹細胞から作った子宮? ぼくは、寝起きの顔をぶん殴られたような衝撃を受けた――「赤ちゃん泥棒」 他、全6編。


昭和の初めの物語の印象が強い著者の初めての近未来もの。

それぞれの短編で少しづつ時代は違うようだけれど、
その未来は、原発事故にによって日本は国土を縮小、首都は福岡にあるが
国としての「日本」はすでに存在しないらしい。

労働力はAIに任せて人間は労働の必要もなく、
人工食料と栄養剤で食糧問題も解決。
でも、人はそんなに変われないのか、収穫や労働や出産に喜びを見出してしまう。

なんだろう。。。逆説的な懐古はよくある話だよね。。。
さほど新鮮さは感じなかったかな


医療が進んで人が死ななくなると必ず出てくるのが、安楽死問題。
苦しまないでいいんだったら、その方がいいけど・・・
誕生も死も操作が簡単に可能になったら、人口は増えるのかな?減るのかな?

一番印象に残ったのは、
廃墟化した高層マンションが舞台の「ふたたび自然に戻るとき」
取り残された老人とカラスの契約。
鳥類から見た人間社会の考察は興味深かった。そう思っていそう

「夢見る帝国図書館」 中島京子



「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」

作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。
もし、図書館に心があったなら――
資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、
読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、
友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、
関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。

日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。

喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。


図書館に心がある・・・という前提が大切なのかな?
帝国図書館をめぐる物語だけでも十分楽しめたと思うけど

幕末から戦後の混乱期まで上野の移り変わりも興味深かったです

安定より精神の自由を愛する喜和子さんも魅力的。
喜和子さんが幼いころ一緒に暮らした復員兵の「にいさん」達はどんな戦後の人生を送ったのでしょうか。
あまり幸福だったとは言えない彼女の宮崎時代。母親の再婚先で育ち、不自由な結婚生活。
上野での思い出は大切な宝物だったに違いない。
小さな子が親と離れて見ず知らずの他人と暮らした数年間の方が楽しかったなんて

物質的に恵まれていても、便利な生活でも自由な気持ちは満たされない。
長屋のような上野の小さな部屋は初めて自分で手に入れた大切な空間だったに違いない。


それにしても・・・


女が本を読んでいても怠けてると思われない時代に生まれてよかった






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プロフィール

樹里

本が大好き。図書館ヘビーユーザーです。
編み物やビーズで手間のかかるモノを作るのも好き。
ラルクアンシエルらぶ。

好きなテレビ番組は「ブラタモリ」タモリが持ってた江戸の古地図ハンカチが欲しい!

好きなアニメは「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」関東事変も渋谷事変も終わってしまって寂しい。早く続きが見たい^^


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